原子力発電所のエネルギー供給は、日本における発電量の3割を占めると言われている。
国内の総エネルギー供給(石油・石炭・天然ガス・ウラン・自然エネルギーの合計)に占めるの割合でみると、原子力発電は全体の1割強である。
こんなに大きな割合を占める原発の供給電力量をゼロにしても大丈夫なのだろうか?
ということで、ザックリと見積もってみた。
まず、民生部門(業務部門≒商用ビル、および家庭部門=住宅)のエネルギー消費を、
ゼロエネルギー建築(または低エネルギー建築)へリプレイスすることによって削減することを考えてみよう。
民生部門におけるエネルギー消費は、日本の最終エネルギー需要全体の約3割を占める。(→ 図1)
このうちの約半分(つまり総エネルギーの約15%)が、冷暖房と給湯に費やされている。(→ 図2)
ゼロエネルギー建築(や低エネルギー建築)は、冷暖房エネルギーの大部分と給湯エネルギーのかなりの割合を削減することができる。
ここでは最大限の可能性を議論しているので、冷暖房と給湯のエネルギーをゼロにできると見積もる。
かくして、建築的対応によって最大で15%を減らすことが可能。
(実際、近年では、資材製造・建設・解体時に消費するエネルギーを含めたライフサイクル・エネルギーをゼロにできる住宅が販売されている。ただし、太陽電池の発電量が冷暖房エネルギーを相殺するとみるか、電気製品のエネルギー消費を相殺するとみるかは、議論の余地あり。)
これは、だいたい、原子力発電が、日本の総エネルギー供給(電力に限らない)に占める割合と同程度である。(→【脚注1】)
毎年の新築率は全ストックの3%程度なので、ずべて建て替わるまで30年かかる計算だが、新築率を5%まで上げれば、20年間で建て替え終える。(→【脚注2】)
新築以外にも、省エネリフォーム(改築)という方法もある。(が、その場合のエネルギー削減量は新築よりも落ちると思われる。)
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(↑ 図1) |
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図2 2007年度における業務部門(左)および家庭部門(右)のエネルギー用途別内訳 (『エネルギー白書2009』から作成) |
今年7月からの電力制限令を実行して問題なければ、15%削減可能としてもよさそう。
15%はピーク電力の削減量だが、【脚注3】に述べる理由によって、
年間の積算電力量(つまりエネルギー)も15%削減できるとする。
(かなり乱暴だが。)
つまり、
3割×15%=4.5%
以上は民生部門についての見積りだが、電力制限令は産業部門にも課されている。
電力消費に占める産業部門の割合は全体の約4割だから、上述の理屈で、その15%
つまり全体の6%を削減できる。
これらをすべて合計すると(輸送部門での削減を入れないでも)、
25%程度のエネルギーの削減が可能であることになる。
(20年~30年かかる)。
原発のエネルギー供給をゼロにして、さらにお釣りがくる。
このお釣りは化石燃料利用の削減に使われるのだが、もちろんそれだけですべてを削減することはできない。
化石燃料は早晩高騰することは目に見えている。
また、CO2削減の観点からも削減が望まれるが、それを代替するには太陽光や風力などの自然エネルギーを増やすしかない。
なお、依然として、費用を誰がどう負担するかという問題は残っている。
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【脚注1】
15%という値は、
エネルギー転換の際のロス、つまり、発送電の際のロスや、燃料・ガスの精製の際のエネルギー損失を入れて考えるのかどうか、また同じことだが一次エネルギーに換算するのかどうか、
によってかなり変わってきてしまうのだが、
ここでは、ザックリとした議論を目指しているため、気にしないことにする。
(実際、【脚注2】の仮定による誤差のほうが大きい。)
なお、図3と図4を参照されたい。
(↑ 図3: 日本のエネルギー需給バランス
出典: 資源エネルギー庁『総合エネルギー統計(2004年度)』、経済産業省『エネルギー白書2007』、
字を大きくしてある)
字を大きくしてある)
(↑図4: エネルギー転換ロスを含めた場合の部門別消費割合)
【脚注2】
省エネという21世紀のビジョンに対して新築で問題を解決しようとする考え方には20世紀的なところがある。しかし、ここでは削減可能量の見積りなので、ご容赦いただきたい。
なお、大野秀敏他『シュリンキング・ニッポン』(鹿島出版会、2008年)を参考にされたい。
【脚注3】
電力制限令は、ピーク電力の削減に関するもので、厳密には積算電力量の削減ではない。揚水発電や蓄 電池導入、あるいは勤務時間のシフトなどは、積算電力量の削減にはつながらない。しかし、ブレーカーの容量を落としたり、機器をエネルギー効率の高いもの に買い換えた場合は、積算電力量も減ることになる。
(以下の図5・図6を参照されたい)。
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(↑図5 ピークと積算電力量との関係 出典: 緊急節電HP by 東京大学生産技術研究所 岩船研究室) |
(↑図6 夏季ピーク電力の部門別割合(東電管内)。
全国の年間積算電力量の部門別割合と少しだけ違う。)
(初稿:2011年7月27日)
(7月30日修正: タイトル、図3)
(8月31日修正: 【脚注1】のあとに新たな【脚注2】を追加。(もとの【脚注2】は【脚注3】に変更)。また、冷暖房と給湯のエネルギーをゼロにできるとする理由を説明した。そのほか関連する箇所を修正。)