直観的には、増税は金融引き締め、国債発行は緩和であるから、正反対の施策ということになると思う。
同じ現象に対して、そこまで処方が異なるということがあり得るのだろうか?
復興財源として国債(60年償還)の日銀引き受けを主張している人は、複数いるが、一般読者にも検証可能なように丁寧かつ分かりやすく論ずる能力は、三橋貴明氏が一番たけているように思う(→注1)。
一方、「増税」を主張する論者としては、正直誰をフォローすればよいのかわからないのだが、野口悠紀雄氏の本や記事は、一般読者による検証可能性を意識しているように見える。どういうモデルに依拠したのか、また、どこからが独自の仮説なのかが明示されているという点で良心的と言える。
(もちろん、だからと言って主張に賛同しているわけではない。)
さて、国債を発行してお金の量を増やしても、市中銀行の企業や市民に対する貸し付けが圧迫されてしまったら元も子もない(さすがに被災地域の住宅・建設・土木に関しては貸し付けが増えるものと筆者は期待する)のだが、この点について野口氏は、銀行が貸し付けに消極的で資金を国債購入する傾向は、長年の銀行の体質(流動性の罠)であって克服するのは難しいとみている。
円高については、 三橋氏・野口氏ともに、為替介入(政府短期証券発行→円→ドル→米国債購入)のために損失を出すのには反対という点で一致しているが、詳細は違う。
三橋氏は、円高の原因が、米欧の中央銀行が自国通貨の供給を大幅に増やす量的緩和を行っているからだとし、円の通貨供給量を増やすことで円高を是正することを主張する。これは同時にデフレ対策にもなる。その結果、均衡レートは今より円安になるはずで、あとは輸出企業の自助努力次第だというのが三橋氏のスタンスだと思われる。
他方、野口氏は、対米資産の取り崩し・売却、および、製造業からサービス産業へのシフトを主張する。
ただし、前者は、米国の怒りを勝って他の面で不利益を被る可能性があり、後者は構造転換なので時間がかかるものと推測される。
(注1)
小泉政権で金融政策を担当した高橋洋一氏も金融緩和を主張している。
三橋氏と高橋氏の違いで面白いのは、両者とも、マネタリーベースの拡大によって円高を緩和する処方を主張しているが、その規範的な帰結が違うというところだ。
高橋氏は、輸出の多い企業はエクセレント・カンパニーだから、日銀が円を増やさないのは怠慢だと言う。一方、三橋氏は、なぜごく一部の輸出企業のために為替介入して損を出さなければいけないのか、と輸出企業に対して厳しい。
【お断り】
筆者は、経済・財政・金融に関しては全くのシロート(せいぜい教科書程度)であるが、一有権者として、事態の推移を見守っているところである。
コメント&間違いの指摘を大歓迎!!
(修正履歴:
・2011年10月12日、文中の括弧注を(注2)に移し、さらに修正・加筆。
・2011年10月13日、
三つ目の段落から、「国債を日銀引き受けとする処方はそれを意識しているはずである。三橋氏も当然考慮している」を削除 (推測の部分が大きいので)。
同段落の、「長年の銀行の体質」のあとに、括弧とともに「流動性の罠」の語を追加。
また、(注2)を削除した (公共事業・直接金融、および、公的インフラ被害と私的インフラ被害の比率について言及しようとしたが、勉強不足の恐れがあり削除した)。
そのほか、大意を変えない範囲で小幅な修正をした。
)
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